【感想】これが最強の「勝利の法則」!    『劇場版仮面ライダービルド Be The One』

8月初週の土曜日、今年もこの日がやってきた。

毎年恒例のスーパー戦隊&仮面ライダーの劇場版公開日だ。

 

W以降の所謂平成二期に入ってからの夏映画はテレビ本編のクライマックスの時期と被るようになるため、一期の頃の最強フォーム早お披露目ではなく劇場版限定フォームの登場を売りにしてきた。今作も勿論例に漏れず、限定フォームのクローズビルドフォームが登場する。f:id:krkarfbhkdkdwofwgdg:20180804132813j:plain

 

ラビットラビット&クローズの意匠を持つこのフォームはいかにして誕生するのか?

その期待を煽りつつ、ドラマも見逃すことはできない。

 

予告で謳われていたように本作ではビルド殲滅計画が始動し、戦兎は全国民から逃げ回らなくてはならないという絶体絶命の状況に置かれてしまう。更にはその裏でテレビ本編のラスボス、エボルトの同族であるブラッド族たちの野望も着々と進んでいる。

 

果たして戦兎は危機的状況を脱し世界を救えるのか?

 

 

※以下はネタバレとなります。十分お気を付けの上でお進みください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ビルド』の劇中に登場するキメ台詞として戦兎が言う「勝利の法則は決まった!

これは単なる台詞の域を超えた意味を持っており、『ビルド』の作劇には一貫してある最強の勝利の法則が定められている。

 

それは主人公の桐生戦兎と相棒の万丈龍我の関係性である。

戦兎は龍我を正しい方へと導き、龍我はその背中を追い「仮面ライダーの何たるか」を身をもって学んでいく。

逆に戦兎が現実の前に打ちひしがれる時、彼から学んだ仮面ライダーの在り方をまっすぐに貫く龍我の言動が戦兎の背中を押す。

本編では第16、22、27、31、37、39話などで繰り返し見られた光景だ。

この互いが互いを引っ張り上げ続ける無限のエネルギーこそ勝利の法則であり、もっと身もふたもない言い方をすれば戦兎と龍我がエモい感じになれば勝ち確なのだ。

 

よって今回の劇場版ではいきなりそれを崩しにかかっている。

一緒になると最強なら分断してしまえばいい。そのために龍我はエボルトの遺伝子を持つ者ゆえに劇場版のボスである伊能賢剛に操られ、あろうことか戦兎と戦わされ、戦兎はどうしようもなく敗けてしまいハザードトリガーを奪われてしまうのだ。

 

「相棒」という勝利の法則を失った戦兎が如何にして逆襲に出るのか。それが”仮面ライダーの劇場版”としての一つ目のテーマとなる。

 

そしてベストマッチよろしく二つ目のテーマが存在する。

 

上で書いたように、劇場版ではビルド殲滅計画によって民衆に追い詰められることになってしまう戦兎。それは伊能の洗脳によるもので仮面ライダー以外防ぐことができないため、美空や紗羽さえもが戦兎を襲う。洗脳を逃れた一海と幻徳も拘束されてしまい、戦兎はほぼ孤立無援の状況に陥ってしまう。

 

誰にも頼ることができない状況の中で、国そのものから逃げなければいけない。

これは序盤の龍我の状況とまったく一緒なのだ。

かつての相棒と同じ状況に立たされ、意識せずとも彼の追体験をしていくことになる戦兎。それは龍我が戦兎の後を追い続け仮面ライダーとなったテレビ本編とまったく真逆ながら、しかしお互い相手の立場を真に体験するのは同じである。

 

龍我と同じ状況に置かれることにより導き導かれる関係を脱し、対等な状態になること。これが二つ目のテーマだ。

 

これらを念頭に置くとクライマックスは自ずと一つに絞られてくる。

すなわち対等になった二人が再開し勝利の法則を決めて野望を砕くのだ。

 

 

では実際にこの二つのテーマを持つ劇場版のドラマはどんなものだったのかと言えば、それは「桐生戦兎の美味しいところ詰め」である。

 

空っぽの所から人との絆や自分の信念などを積み上げて本物のヒーローとなった戦兎のことを否定しもう一度どん底に陥らせ、それらを再確認させて再起させる。

これ自体はテレビ本編でも割とやってきたことだが、劇場版が違うのは戦兎の関係者オールスターズが60分の間にバンバン登場することだ。

 

視聴前は一番大事な龍我との関係がクローズアップされるくらいかと思っていたのだが、いざ始まると関係があったと判明する伊能、『石動惣一の面』で接するエボルト葛城巧、果てには過去の葛城忍までもが登場し戦兎の心境に大いに関わってくる。

 

龍我を奪い「君を作るよう提案した」と語る伊能は洗脳のことについて戦兎に告げる。曰く「市民たちにとって仮面ライダーは兵器・戦争の象徴に他ならず、排除を望むのは彼らの本心なのだ」と。そして破滅の力である仮面ライダーブラッドに変身し、改めてライダーシステムの平和利用の否定によって徹底的に戦兎のアイデンティティを揺さぶり、一度は完膚なきまでに叩きのめしてトドメを刺しかける。

しかしそこでエボルトが助けに入り、あまつさえかつての石動惣一ぶった顔して戦兎とわずかながら語らうのだ。おまけに「俺の事なんか何も知らないクセに!」と激昂すれば「知ってるよ、お前以上に。お前を作ったのは俺なんだからな……」と最高にニクい台詞を吐き出す。お前本当そういうとこだぞ

エボルトと分かれた戦兎は、今度は自身の内にいる葛城巧と言葉を交わす。「エボルトを倒すためとはいえ、やはりライダーシステムなど作るべきじゃなかった」「万丈龍我は世界を滅ぼすカギなんだよ!」と否定的な巧に対して、しかし戦兎はもう別の答えを見出していた。

それが葛城忍との過去のやり取りだ。『スカイウォールの惨劇』の真っ只中で忍は戦兎(巧)に「いつかこの力で地球外生命体が地球を滅ぼそうとする。その時地球を救うカギとなるのは万丈龍我だ!」とかつて伝えていた。さらに戦兎は思い出す。

 

「父さんっ! ……父さんは何のために、科学者になったの?」

「……ラブ&ピースのためだ!」

 

1年ビルドを見続けて感性を慣らされた身として、ここで満を持してのラブ&ピース発言には興奮を通り越して快感すら覚えた。

劇場版が戦兎のドラマなら最終的にはやっぱりラブ&ピースに戻ってくるのだ。しかも今回は「その信念はどこから来たのか」に対する解答編の役目まで果たしている。

「ライダーシステムは正義のためにある」と定義しながらも、本編では今までそれが本当に正しいのか答えてくれる人物は結局おらず、実のところ戦兎が言い張っているに過ぎずに曖昧だった信念に、ついに生みの親から「その通りだ」という力強い答えが返ってきたのだ。

 

ラブ&ピースのために戦う戦兎の信念を揺るがすことは誰にもできなくなった。精神的に無敵となった戦兎はいよいよ最終決戦に臨む。

 

そして迎えるクライマックスでは、二つのテーマがついに絡み合ってくる。

戦兎だけではブラッドに勝てない。勝つために必要なカギは万丈龍我。先に書いたように龍我を取り戻した瞬間に勝利の法則が決まる。

そのために戦兎はブラッドから龍我を引き摺り出し「万丈、お前の命、貰うぞ…!」とハッキリ言葉にする。ニュアンスとしては「勝つために力を貸してくれ!」とほぼ同義であり、ここで二つ目のテーマ通り二人が対等になったことが表現されている。

そうして龍我を取り戻せば一つ目のテーマもクリアされ、さあこっちのモンだ。勝利の法則が決まった瞬間にベルナージュの力で洗脳を脱した美空と紗羽が合流し、内海のお陰で拘束から脱出できた一海と幻徳も合流する。あっという間に仲間たちみんな元通り、負ける気がしねえ!

 

全てが絡み合ったその先で、ビルドを作り上げてきたもう二人である美空&ベルナージュの力を借りて、ゴールドラビット&シルバードラゴンボトル、戦兎と龍我が文字通り「Be The One」したクローズビルドフォームが誕生する!

テーマ、ドラマ、キャラクター同士の関係性、アクション、それら構成要素全てもBe The Oneしての誕生は本当にお見事としか言いようがない。

 

ラストのVFXを多用したクローズビルドVSブラッドは映像の迫力的にもこれぞ劇場版と言えるものに仕上がっていた。クローズドラゴン・ブレイズとスタークの巨大コブラの激突シーン、金のラビットラビットアーマーを使っての大ジャンプなど、ラビラビ&クローズらしさも活きている。

そして大バトルも終盤、戦兎はもう決して揺るぐことのない信念を見せつけ、戦いに終止符を打つ。最後のライダーキック「ラブ&ピースフィニッシュ!」には二人の全てが込められていたのを確かに見届けることができた。

(変身アイテムのクローズビルド缶。随分素っ気ない名前だが、缶=canで「ビルドとクローズならできる」という言葉遊びだろうか)

 

戦いを終えた戦兎と龍我はいつものようにバカなやりとりをしながら、それでもお互いを認め合うかのように手を打ち合わせる。

パンフレットで戦兎役:犬飼氏のインタビューを読むと「今までも台本に書かれていたけどずっとやらないと決めていたことを解禁した」と書かれているが、恐らくここのことだろう。確かに二人が本当の相棒になったこの劇場版で初めてやるからこそ、真に気の置けない関係になったことが表現できていた。素晴らしい判断である。

 

 

この劇場版は「粗も多いがエモいところは絶対に外さない」と言われることもあるビルドの話作りの中で、テーマをきちんと示し、その通りに話を運び、クライマックスで積み上げてきたものを爆発させる、個人的には完璧な展開だった。

 

こうしてまた一つ大きな戦いを乗り越えた仮面ライダー。いよいよ残すはテレビ本編、エボルトとの決戦を待つのみである。

一海がグリスブリザードへ命がけの変身を果たし、動向が気になるところだ。

戦兎と龍我は破壊をもたらすだけのエボルトを倒し、ラブ&ピースを証明できるのか。

残り3話。目が離せない。